「重要だから覚えておくように」の落とし穴

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「重要だから覚えておくように」の落とし穴

はじめに

家庭教師の指導では短い時間でより効率的に生徒さんの指導をしていかなければなりません。

より効率化を図ると、重要なポイントでも生徒が一人で理解できそうな問題は ここはテストに出やすいから見ておいてね」と言って、飛び越して次の問題に進んでしまうことがあります。

しかし、それはやってはいけない指導法です。今回は、「覚えるべき」の認知について書きたいと思います。

今回の記事に登場する「リハーサル」については、 「学習・暗記の基本「リハーサル方略」」をご覧ください。

「覚えておくように」の落とし穴

授業内で「ここは重要だから覚えておくように」と指示する学校教員、家庭教師は少なくありません。 みなさんも少なくとも一度はそのような指示を受けたことがあるのではないでしょうか?

このように「指示以上のこと」をしないのは、とても重大な問題を引き起こします。 教育心理学、認知心理学を専門にされている多鹿秀継氏の実験がその問題を具体的に示しています。

その実験とは、「ここは重要である」をより具体的に認識できるように、 単語によって正解すると1セントか10セントの報酬がもらえることを予告します。 実験参加者を小学5年生、中学3年生、大学生の3群分け、 リスト当たりの平均リハーサル回数と平均正再生数を記録しました。

以下の左はそれぞれの単語に対してリハーサルを行った回数で、 右はリハーサル後の正再生数(単語テストの正解数のこと)を示したグラフです。

多鹿秀継先生の実験

(出展)多鹿・鈴木 (1992)

左のグラフを見ると大学生は明らかに1セントのリストにある単語よりも10セントのリストにある単語のほうをよくリハーサルしています。 これは大人なら誰しも「10セントの単語を覚えたほうが得」と判断することからも分かると思います。

しかし、小学生はお得なはずの10セントの単語のほうがリハーサル回数が少ないのです。 中学生に関しても10セントの単語のリハーサル回数が大学生ほど多くありません。

またリハーサル回数の結果は、その後の試験結果にも反映されます。 大学生は得する10セント単語の正再生数(正等数)が圧倒的に多いけれど、 小学生は1セントの単語も10セントの単語も正再生数は変わらないのです。

つまり、小学5年生では両方の単語に対するリハーサル回数も記憶成績もほぼ変わらなかったが、 大学生では10セント単語により多くのリハーサルを行い、成績もよかったわけです。

中学3年生も小学5年生もお金の価値を十分に認識していると思います。 それではなぜこのような結果になったのででしょうか? おそらく脳がまだ未発達のためにこのような結果に至ったのだと考えらます。

通常、人の脳はだいたい17、18歳で一般成人と同じ容量まで発達します。 したがって、未発達の脳を持つ中学生以下の生徒にいくら「ここは重要だから覚えておくように」 と言い聞かせても限界があるということなのです。

おわりに

このような問題を発生させないために、少なくとも中学生以下の義務教育では生徒の自主性に頼りすぎないことが重要です。 とくに家庭教師は少ない時間で効率的な指導を求められます。 ですから、確実に習得できるような教材や宿題、また次の回の確認テストを用いて指導する必要があるのです。

本来、教育とは試験に合格するため、良い点を取るためのものではありません。 家庭教師はそのことをよく考えて指導していく必要があります。

参考文献: 太田信夫著 教育心理学概論

(2012.6.7更新)

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